サラリーマンの知ったかぶり

法学修士のサラリーマンが(なぜか法学以外の分野の)研究を読んだ感想を自由気ままに書いています。同時に、無類のドラマ好きでもあるため、ドラマについてもあれこれ書き殴って行きます。

苅谷剛彦、本田由紀編『大卒就職の社会学――データからみる変化』④

濱中義隆「1990年代以降の大卒労働市場」(第3章)

【目的】

就職活動のあり方における学校歴ごとの差異が近年の就職活動の自由化によってどのように変化したのかについて、93年、97年、05年のデータを比較し、明らかにする。

【検討】

就職活動の早期化・長期化による学校歴間の差異の様相が変化

・就職協定が廃止される以前は、偏差値の高い大学の学生の内定は7月1日(解禁日)の直前に集中しており、それよりも前に、それ以外の(下位の)大学の学生の内定が出されることも少なくなかった

・しかし、就職協定が廃止され、就活が自由化されたことで、上位校の学生がもっとも早く内定獲得に至り、下位校の学生の内定獲得時期はそれよりも後となった

・また、活動期間についても、協定廃止前は下位校の学生が最も長かったが、廃止後は上位校・中堅校の学生のほうが長くなっている

・活動量:上位校と下位校で増加(ただし下位校の活動量は常に最も少ない)、中堅校は変化なし

学生の主観も変化

・就職協定廃止直後(97年調査)は、出身大学からの採用実績が評価されないと考える学生の割合が大きく増加したものの、05年調査では同割合は減少(特に、上位校)

・「内定先は行きたいと思っていた企業か」:上位校で「最初から行きたいと思っていた」比率が高く、下位校で「あまり行きたくない」比率が高い(93年)→学校歴間で大きな差はない(97年)→上位校と下位校のあいだで「最初から行きたいと思っていた」比率に大きく差異があるものの、下位校においても「途中から行きたいと思った」引き率が高くなっている(05年)

最も変化したのは上位校の学生

・就職協定廃止によって、「学校歴」に守られていた上位校の学生が危機感を覚え、活動の早期化、活動量の増加へと繋がった

・中堅校、下位校は、その活動量や内定獲得時期の早さにおいて、上位校に逆転された

・学校歴の優位は、今や外部の制度(OB・リクルーターなど)によって支えれているのではなく、上位校の学生個々人の頑張りによって正当化され得る・・・それで良いのか!?

【雑感】

・就活に対する意欲という面でも、成功体験を重ねることができるという面でも、上位校の学生は有利である。進路形成や学業達成の段階で階級による格差が存在する以上、就活の自由化によって上位校の学生が有利に扱われることを正当化することはできない。就活においても、新自由主義的な流れが推し進められているといえる。

出身大学からの採用実績が評価されないと考える学生の割合が上位校に特に多いというのは、ひっかかる。中堅・下位校の学生がそのように全く考えていないことはありえないにしても、彼らが「自分の能力が低いからだ」という認識を持っているとすれば、そのような自己肯定感の低さは大いに問題である。逆に言えば、上位校の学生についても、「自分の能力が高いからだ」という認識を持てていないのであれば、これも同様に問題といえる。