苅谷剛彦、本田由紀編『大卒就職の社会学――データからみる変化』③
平沢和司「大卒就職機会に関する諸仮説の検討」(2章)
【目的】
大卒者の就職活動の結果を左右する要因について、再検討する。
【検討】
大卒就職機会に関する諸仮説と社会の変化
・OB仮説(大企業にOBの多い有名大学出身者は就職に有利):①就職協定が廃止され、OBを利用するメリットが少なくなった,②ネットを利用した採用の普及により、OBの採用における直接的な影響力が低下した,③求人倍率の長期的な低下に伴って、質重視の採用が行われるようになった
・学校歴仮説(選抜度の高い大学就寝者は就活に有利):①入試で問われる能力と会社で必要とされる能力はますます乖離するようになっている⇔②大学進学率の上昇に伴う大学生の質の低下を背景として、大学選抜度は知的能力を担保する重要な指標となっている
・その他、出身社会階層(父親がサラリーマンであれば助言を得やすい)や大学生活(ESや面接時に多くされる質問は「学生時代に頑張ったこと」)なども就職結果の要因として挙げられる
根強く残っている学歴社会――データ分析の結果
・選抜度の高い大学の卒業者は大企業に入りやすく、専門職に就きやすい
・その一方で、成績やクラブ参加(文系のみ有意)も就職結果に正の影響を与えている・・・成績については、大学選抜度を統制したうえでの効果であることから、企業が評価しているものは学力ではない「なんらかの特性」かもしれない
・OB利用の効果は限定的であるばかりではなく、その利用率は低く、低下傾向にある
・希望した職種に就けたかどうか(当事者意識)に対して、大学の選抜度は影響を与えていなかった・・・but大学群によって最初から希望水準が異なっている可能性
・就職結果に対する出身階層の直接効果は認められない
・以上のような傾向は、バブル経済期を除いて近年まで比較的安定しており、大卒労働市場はそれなりに構造化されている
【雑感】
・学校歴仮説が支持されるという結果について:学校歴が今もなお強く就職結果に影響を与えているにもかかわらず、OB仮説は支持されないとすれば、どのようなルートで影響が与えているのだろうか。企業が能力の高い人材を採用した結果なのか(仮説A)、それとも企業は(直接的にせよ間接的にせよ)学校歴それ自体に価値を見出しているのか(仮説B)。これらの仮説を検証するために、人事の方を対象に、学校歴が公表されている条件下で面接する場合と、学校歴が非公表にされている条件下で面接する場合とで、採用された学生の学校歴に有意差があるかどうか実験してみたい。もしも有意差があるとすれば、そこで評価されている能力とは何か、インタビュー調査も行いたい。