サラリーマンの知ったかぶり

法学修士のサラリーマンが(なぜか法学以外の分野の)研究を読んだ感想を自由気ままに書いています。同時に、無類のドラマ好きでもあるため、ドラマについてもあれこれ書き殴って行きます。

苅谷剛彦、本田由紀編『大卒就職の社会学――データからみる変化』②

本田由紀「日本の大卒就職の特殊性の問い直す――QOL問題に着目して」(1章)

 【目的】

大卒就職に関わる諸主体にとって、日本の大卒就職のあり方そのものが、合理性や納得性を有したものであるか」を問題化する視角に基づいて、今の大卒就職のあり方を考察する。

【検討】

バブル期(1980-1990)からロスト期(1993-2004)へ

・1990年代から新規大卒者が著しい増加を見せる→but就職者数に変化なし=大卒者の増加分はニートやフリーターの数に吸収されている

・長期勤続に否定的で、転職やフリーターに肯定的≠安定志向

ポスト期(2005-2008):安定志向かつ戦略的志向へ

・就職者数が回復する一方で、フリーター等の比率も高い

・安定志向への回帰を見せつつも、「会社の将来性」重視の低下/「仕事が面白いこと」重視の上昇が確認される→会社人間の再来ではなく、企業を自分自身の職業的成長・自己実現のために活用しようとする戦略的志向

・就職への期待と不安が錯綜する状態にある

企業と学生の双方にとって負担が増える就活

・早期化、長期化:就活開始時期が前倒しになる傾向

・厳選化:採用基準の厳格さ(企業) ⇔ 内定辞退率の高さ(学生)

・煩雑化:採用に至るまでのプロセス増加&多元化

・情報の非対称性:企業―学生が相互に情報不足な状態(とりわけ、企業から学生への情報提供が不十分なことは学生にとって大きな負担となっている)

就活における大学間格差の拡大

・卒業後の進路不安定:設置年が新しい私大卒の割合が高い

・大企業への就職:設置年が古い私大および国立大の割合が高い

就活は学生のQOLを低下させている

・早期化&長期化→学生(特に地方の学生)の時間・お金・エネルギーを必要とする

・企業による情報提供の不足→学生にとって大きなストレスとなっている(例:選考結果が知らされない)

・厳選化→学生に対する「やりたいこと」を明確にしろというプレッシャー

デメリットが大きい新卒一括

在学中に就活が開始することから、採用基準は勉学内容ではなく「人柄」という抽象的なものになる→採用基準の不明確化、ミスマッチによる早期離職の増加など

・新卒一括採用は、高度経済成長期においては合理性を有していたが、現代においては学生・企業双方のQOLを著しく損なう等のデメリットの方が大きくなっている

著者による提言

①大学教育の成果が採用基準として重視されなければならない→卒業後3-5年の既卒者もすべて新卒者とせよ

②(ミスマッチの解消のため)勉学内容や本人の希望を尊重した職種別採用を行え

③大学教育の職業的意義を向上させよ

【雑感】

・早期化・長期化について:就活における金銭的負担は極めて重大な問題である。お金がなければ企業の情報は手に入らないだけでなく、説明会への参加がエントリーの必須条件となっている企業も少なくないことから、金銭的余裕の有無が学生の採用可能性を大きく規定しているといっても過言ではない。

・職種別採用について:著者の意見に賛成。しかし、そもそも、企業側がそのスキルを持ち合わせていない可能性がある(組織のなかでどのようにしてプロフェッショナル人材を育成し、活用すれば良いのか分かっていない)。これは、「需要」が極めて不明確なことを意味しており、そうであれば、大学側は、あるようでない「需要」に応えなければいけないこととなる。また、職種別採用が普及した場合、これまでのような配置転換を用いた労務管理が(法的には)不要となることから、労働者の雇用保障に対する悪影響についても考慮する必要があろう

・大学教育の職業的意義について:教育の職業的意義を明らかにすることは、教育から職業へと移行していく当事者たる学生にとって、非常に重要である。彼らの人生にとって、職業へ就けること(企業へ就職できること)は何よりも大切であり、このことに対する責任を教育サイドは放棄するべきではない。しかし、一方で、教育の職業的意義を過度の追求してしまうと、教育が持つその他の意義が無視される危険がある。それらのバランスないし両立こそが、教育の職業的意義を考えるうえで大きな課題であるといえよう。